畳の上に作業台や刷毛、漆桶が並ぶ漆工房の再現展示

地の粉と百の工程 輪島塗ができるまで

輪島塗の深い艶と、日々の使用に耐える丈夫さは、どこから来るのでしょうか。その答えは、能登の土と、職人の分業で積み重ねられる百を超える工程にあります。ここでは、輪島塗ができるまでをたどります。

漆の森と、古い器

漆は、ウルシの木から採れる樹液です。石川県内の遺跡からは縄文時代の漆器も見つかっていて、この土地の漆の仕事は長い時間をかけて根づいてきました。輪島に伝わる漆器には、16世紀にさかのぼるものもあります。

ウルシの木
ウルシの木。幹に小さな傷をつけ、にじみ出る樹液を集めたものが漆になります。

地の粉という下地

輪島塗をほかの漆器と分けるのが、「地の粉(じのこ)」です。輪島で採れる堆積岩を細かな粉にしたもので、これを天然の漆に混ぜて、丈夫な下地を塗り重ねます。木地のうち、縁など傷みやすいところには布を着せて補強します(布着せ)。

100を超える工程

ひとつの器ができるまでには100を超える工程があり、漆は多いもので30回ほど塗り重ねられます。一度塗るごとに、ほこりのない部屋で約24時間かけて乾かすため、仕上がりまでには数か月かかります。工程は職人ごとに分かれていて、注文の相談から納品までを取りまとめるのが「塗師屋(ぬしや)」です。塗師屋は、できあがった器を全国へ直接届けてきました。京都や大阪からの需要に応えるために、この分業の仕組みが育ったとされています。

沈金と蒔絵

上塗りを終えた器には、沈金や蒔絵で文様が加えられます。沈金は漆の面を彫って金を埋める技法、蒔絵は漆で描いた上に金粉などを蒔く技法です。輪島塗は、全国の漆器のなかでただひとつ、国の無形文化財の指定を受けています。

NORTAの漆

輪島塗の蒔絵の器は、蒔絵師・哲舟によるもので、高さ6.2cm、直径8cmの小ぶりな器です。漆のワイングラスは産地が分かっていませんが、外側の黒と内側のオレンジゴールドが対をなす、木に漆を塗った軽い器です。

輪島塗 蒔絵師 哲舟輪島塗 蒔絵師 哲舟漆ワイングラス漆ワイングラス

画像:冒頭「漆工房の再現展示(ドイツ・シュトゥットガルト、リンデン博物館)」KarlHeinrich(パブリックドメイン)/「ウルシの木(岐阜県中津川市)」takami torao(パブリックドメイン)、いずれも Wikimedia Commons
参考:観光庁 多言語解説文データベース「輪島漆芸美術館」/特許庁 地域団体商標「輪島塗」


Jinoko and a Hundred Steps: How Wajima-nuri Is Made

Urushi lacquer is the sap of the lacquer tree, and lacquerware from the Jomon period has been found at sites in Ishikawa. What sets Wajima-nuri apart is jinoko, a powder ground from local sedimentary rock and mixed with urushi to build a durable base; cloth reinforces fragile edges. A single piece takes more than a hundred steps, with up to thirty coats of lacquer, each dried for about a day in a dust-free room. The work is divided among specialists and coordinated by a nushiya, who has long sold directly to customers across Japan. Finished pieces may be decorated with chinkin, gold inlaid into carved lines, or maki-e, gold powder sprinkled onto lacquer drawings. Wajima-nuri is the only lacquerware in Japan designated a national Intangible Cultural Property.